「…今日は俺に付き合ってくれるんすよね?」
越前君からの誘い。そういえば、前にそんな約束したような記憶がある。
ただ、あのときの流れだったから本気にするとは思ってなかった。
あの時とは、この間の都大会が終わった夜。
英二がレギュラー陣を誘って、飲み会をすると言った。
その場所が僕の家。
そのときに、僕は調子に乗って「今度の日曜日、2人で遊びに行こうね」と言ったのだ。
そう、恋人の手塚の目の前で。(後で、みっちり怒られました)
それが今日。
今日は珍しいことに、部活が昼までだった。
どうやら、昼からは越前君に付き合うことになりそうだ。
「不二〜今日、一緒に遊ぼうよ〜」
英二がそう誘ってきてくれるけど、「大事な約束があるから」とやんわり断った。
英二は英二で、「あ、そっか。おチビとの約束があるもんね」と言って、大石の元へ戻っていった。
「不二先輩。行きますよ。」
越前君に誘われて、僕は彼の後を追う。
青春台駅に着いて、越前君は僕に言った。
「じゃ、2時にここに集合っすよ。」
どうやら、着替えて来いと言うらしい。
僕はその指示を大人しく聞いて、駅の中に入っていった。
2時ごろ、僕は青春台駅の前にいた。
越前君の遅れることなんか、毎度のことだと思っているから特に気にしなかった。
2時を少し回ったごろ、そのときに越前君はやってきた。
「悪いっすね。ちょっと遅れました。」
「ううん。僕も今丁度来たところだし。」
ラブラブカップルのような会話。
手塚のときなんか、こんな会話なんてしたことない。
あ、手塚と比べちゃったな。
「じゃ、行きますよ。」
駅の中に入って、越前君は行き先の駅までの切符を買った。
僕と二人分の。
電車に乗って、その行き先まで向かう。
電車はあまり混んでなかった。
僕たちは隣同士に座る。
電車の中は、まるで会話はなし。
僕は座ったまま、心の中で何から話そうか焦っているし。越前君はずっと外を眺めている。
電車はそんなにも混んでなくて、僕らがいる車両にはほんの数人しか乗っていなかった。
何、僕は喋ろうとして焦ってるんだろう。
手塚といる時だったら何も話さなくてもいいと思うのに、越前君だったらどうしてこんなにも焦っているのだろう。
「無理に、喋ろうとしないでいいっすよ。先輩を困らせるために来たんじゃないっすから。」
越前君の言葉で、また会話が途切れる。
長い沈黙。
車内に車掌のアナウンスだけが響き渡る。
「降りますよ。」
「あ、うん。」
越前君に着いていく。
駅を出て、少しばかり歩いたところにあったのは大きな砂浜だった。
「一度、不二先輩をここに連れてきたかったんっすよ。ここの砂浜でキスした恋人同士は幸せになれるんですって。
まぁ、恋人のいる不二先輩を連れてきても意味無いと思うんすけどね。」
「折角だし、ちょっと遊んでいきません?」
「そうだね。」
越前君は、ごそごそとシューズと靴下を脱いで海へ走っていった。
「越前君。あまり海に入ると風邪引くよ。関東大会も近いんだし。」
「分かってますよ。そんなこと。」
僕がいった注意も軽く無視された。
ばしゃばしゃと越前君が水で遊ぶ音が聞こえる。
一度、手塚も連れてきてあげようかな。
部活を引退したら。気晴らしにでも。
「不二先輩も来たら?」
越前君に言われて、シューズと靴下を脱ぐ。
ジーンズの裾を上げて僕も、海へと走った。
「あと2年、早く生まれてればよかったのに。そしたら、俺は不二先輩の王子様になれてたのにな。」
そんな呟きが聞こえる。
僕は越前君の方を振り返る。
「そしたら、不二先輩が部長より俺を選んでたかも知れないのに。何で、部長なんだろうな。」
「越前君…」
「ま、悔やんでても仕方ないや。さぁ、不二先輩帰りましょうか。」
越前君は立ち上がった。
普段はとても小さいのに、そのときだけ少し大きく見えた。
「うん。」
越前君のあとについて行く。
「越前君。」
「?」
チュッ
「!?」
「幸せになれるんでしょ?この砂浜でキスしたら。だから、越前君も幸せになってもらいたいから。2年早く生まれなくても君は立派な僕の王子様だよ。」
顔を真っ赤にして俯いた、越前君が僕の手を引っ張って、ぶっきらぼうに言った。
「帰るっすよ。」
「うん。」
生意気な越前君の本性が垣間見れた僕は、これほど無い優越感を感じた。
「不二先輩は確信犯なんっすよ。」
困ったように言った越前君の顔がおかしかった。
「ごめんね。」
「別にいいっす。」
握っていた手を僕は、強く握り返した。
そして、本日2度目のキスを王子様に差し上げたのでした。
Fin
初リョ不二。
なんか失敗作っぽい。
初めてにしたらまぁまぁかな。
BACK